わんわん電鉄

好きな音楽は、鉄道の路線網のように広がっていくものだと思う

【考察・解釈】スピッツ『ありがとさん』

『ありがとさん』は、アルバム『見っけ』の3曲目に収録されています。

 

 

ありがとさん

ありがとさん

  • provided courtesy of iTunes

 

 

 

 

MVは、スピッツの公式チャンネルで公開されています。

昭和の夏の終わり感あふれるセットもまたいいですよね。なんといっても、その部屋の狭さや、ゴチャゴチャ感がまたいいですよね。夏休みの終わりに、ある少年(中学生か高校生?)の部屋で、バンドメンバーが集まってみんなで演奏している感じがします。

 

メンバーが学生だった頃、部屋はあんな感じだったのでしょうか。

 

思春期の頃の思い出の詰まった部屋に、大人になった今、もう一度戻ってくる…そんなテーマなのでしょうか。

 

 

・・・・・・

 

この曲は、大人なラブソングだと思っています。

一般的なラブソングといえば、「君が好きだぜ~」とか、「愛してるよ」とか、そういったストレートな台詞の入った曲が多いような気がします。それこそ、若さ溢れるラブソングと呼ぶことができそうです。

 

しかし、この曲は、そういったストレートな表現がないんですよね。けれども、優しくて愛の溢れる、綺麗な言葉の一つ一つから、あたたかな愛情を感じるんです。

 

 

 

 

 

君と過ごした日々は やや短いかもしれないが

どんなに美しい宝より 貴いと言える

このフレーズがすごく好きです。 

「どんなに美しい宝より貴い」という表現が、すごくいいですよね。期間が短かろうと、一緒に過ごした日々は、「どんなに美しい宝」よりも「貴い」…こんな風に相手に言われてみたいな~というセリフですね。世界で最も貴いものが、「美しい宝」であって、つまり、世界一貴い!と言っている気がします。

 

尊いではなく、「貴い」とするのも、その一緒に過ごした日々は、貴重なものであった、ということを表現しているのだと思います。(尊敬すべきものである、という意味ではないということです。)

 

 

また、ここのコード進行がすごく好きなんです。

「より 貴い」の部分、E7→D#(Capo2)の流れがいいですよね。非常に気持ちがいいです。

 

 

 

 

お揃いの大きいマグで 薄い紅茶を飲みながら

似たようで違う夢の話 ぶつけ合ったね

 

「お揃いの大きいマグ」っていいですね~つまりは、ペアカップということですよね。二人は本当に仲がいいんですね。

 

二人は仲がいいといっても、やはり別の人間であるということを表す象徴的なフレーズが「似たようで違う夢の話」です。リアリティ溢れる言葉遣いだなと思います。

 

 

 

 

あれもこれも 二人で 見ようって思ってた

こんなに早く サヨナラ まだ寒いけど

主人公は、まだまだ二人で一緒に生活できると信じていたのでしょう。「こんなに早く」とあるということは、突然、別れの時はやってきたんだと思います。

実現できなかった予定を思い返すという行為が一番切ないですよね。しかも、二人で行こうと思えば行くことができたのですから。ただ時間が許さなかったというだけで、たくさんの未練を残してしまったことに対する辛さが、ひしひしと伝わってきます。

 

 

 

 

ホロリ涙には含まれていないもの 

せめて声にして投げるよ ありがとさん

「ありがとさん」というメッセージは、「ホロリ涙には含まれていないもの」なんですね。だとすると、「ホロリ涙」には、別れを惜しむ気持ちとか、悲しさとかが含まれているんでしょうね。そして、「ありがとさん」には、相手への感謝の気持ちが含まれているということなんだと思います。

 

 

「せめて声にして投げる」ということは、涙という形では表現しないで、声に出して表現する、ということですよね。あくまでも個人的な推測ですが、涙だと相手には感謝の気持ちが伝わりにくいので、声に出してはっきりと感謝の気持ちを伝えるよ、ということなのかなと思いました。

 

「投げるよ」ということは、割と遠くにいる相手に伝えるということを表しているような気がしました。近くの相手に伝えるんだったら、渡すとか、ただ伝える、とかでもいいような気がするんです。

 

 

「ありがとさん」って、ただ「ありがとう」ではなく、少し軽い感じの言葉ですよね。少しフランクな感じがします。そこに主人公の照れ隠しを感じます。大事な言葉に限って、口に出すのが恥ずかしい、みたいなことがありますよね。

 

 

 

 

謎の不機嫌 それすら 今は愛おしく

顧みれば 愚かで 恥ずかしいけど

この部分が一番解釈に悩んだ部分です(笑)

私は、相手が「謎の不機嫌」をとった、ということだと思っています。

相手がたまに不機嫌な態度をとるときがあって、当時の主人公はムッとしたけれど、別れた今となっては、そんなことも「愛おしく」感じるようになった、ということだと思います。

 

 

また、「顧みれば」という言葉もポイントだと思います。「省みれば」ではなく、「顧みれば」なんですよね。前者は、「自分自身の言動の善悪を振り返ってよく考えること」、後者は、「過ぎてしまった物事や人に対して思いを起こすこと」だそうです。

↓以下のページを参照しました。

これを踏まえると、自明のことだとは思いますが、「顧みれば」を使ったということは、思い返していることは、自分自身の行動ではなさそうなんですよね。するとやっぱり、相手が「謎の不機嫌」を取ったことを思い出しているんでしょうね。

 

 

相手が不機嫌な態度を取って、それに対して主人公が少しきつい言い方や冷たい態度を取ったという一連の思い出を振り返って、愚かだったなぁ、今思えばそんな二人は恥ずかしいなぁと思った、ということだと思いました。お別れして、その二人の思い出を、第三者目線で見れるようになったからこそ、恥ずかしいという感情が生まれたんじゃないかなと思います。

 

 

 

 

いつか常識的な形を失ったら

そん時は化けてでも届けよう ありがとさん

以前、どこかの記事で読んだような気がするのですが、この曲は亡くなった人の目線で書かれている、ということです。となると、「常識的な形を失ったら そん時は化けてでも」というフレーズは、亡くなって肉体が無くなって、幽霊になったら(=「常識的な形」ではない)、何か現実の物に化けようとしている、ということを表しているのではないでしょうか。

 

 

現実の物に化けるならば、相手に対して直接に感謝を伝えることができますよね。だからこそ、ここでは「届けよう」という言葉が使われているのだと思います。

それを踏まえると、先ほどの「投げるよ」は、やはり主人公から相手の間に距離があると考えることができそうです。もしお化け(?)だったとしたら、死者の世界から言葉を現世に向かって投げる、ということなんでしょうか…?

 

 

 

 

主人公は死者の世界にいて、現実に生きている君を見守っているというテーマの曲として思い出したのが、星野源の『予想』です。歌詞が切なすぎて、聴いていて泣いてしまったことがあります。

この曲は、『エピソード』というアルバムに収録されています。

 

予想

予想

  • provided courtesy of iTunes

 

 

 

曲の間奏の、冒頭のメロディーを繰り返したギターの音が渋みがあって良いですよね。MVの映像を見たという理由もあると思うのですが、夏の終わりの、汗が染みて少しべったりした感じを、ギターの音から感じます。

 

曲の最後に、もう一度冒頭の「君と過ごした~貴いと言える」のフレーズを入れています。これによって、この曲で一番大事な部分なんだと分かるとともに、今も主人公は相手を大事に想っているということが伝わってきます。じんわり温かいものを心に残してくれて、この曲は終わります。

 

 

・・・・・・

 

 

リアリティ溢れる、大人のラブソングですね。

 

最初聴いたときには、マサムネさんの実体験なのかな!?と思うほどに、リアルに近い感情が描かれていると思いました。とりわけ、「謎の不機嫌~」のところで、胸がきゅうっと苦しくなりました。

 

やっぱりマサムネさんが作るラブソングは最高だなと感じました。(小並感でごめんなさい笑)