わんわん電鉄

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【感想】aiko『かばん』


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この曲は、2004年にリリースされた、aikoさんの15枚目のシングルです。私は、この曲がTBSの『カバン持ちさせてください!』のオープニングで流れているのを聴いて、この曲を知りました。サビのメロディーが美しくて、一瞬で聞き惚れました。

 

 

 

私は、この曲のメロディーに一目惚れし、じっくりと聴いていくうちに、歌詞のかわいさ、すなわち、片思いする女性の繊細な感情が丁寧に描かれているところに惹かれていきました。よく歌詞を読んでみると、本当に切ないですし、「どうして、感情をこんなにも的確に言語化できるんだろう!?」と驚きます。

 

そういうわけで、今回は、『かばん』の歌詞の素晴らしさについて、ただただ語りたいと思います。歌詞の意味は、詳しく書かずとも、もうおわかりですね、片思い中の女性の感情を表現しています。

 

 

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まずは、曲の冒頭のこのフレーズです。

そのまんまのあなたの 立ってる姿とか

声とか仕草に 鼻の奥がツーンとなる

好きな人であれば、特段かっこつけたことをしていなくても、そのありのままの姿でそこに在るだけで、キュンとしてしまう、ということだと思います。

そして、そのキュンとする気持ちが、「鼻の奥がツーンとなる」と表現されている(と思う)のですが、この表現がなんとも秀逸であると感じます。これは、この曲の主人公が好きな「あなた」を見て、好きすぎて胸がいっぱいになって、泣きそうにすらなっているということを表しているのでしょう。あるいは、「あなた」をみて主人公は、胸がいっぱいになりすぎたがゆえに、大きく息をすいこみすぎて、風が鼻の奥をツンとさせているということなのかもしれません。

 

 

こういうことを書くとaikoさんファンの方に怒られてしまいそうなのですが、私は、この「鼻の奥がツーンとなる」の部分を、"鼻の奥がつるとんたん"と聞き取っていて、「?」となっていました。申し訳ございません。

 

 

つぎに、サビのこの歌詞です。

大きな鞄にもこの胸にも収まらないんじゃない?

恥ずかしい程考えている あなたのこと

あの日から ずっとあなたの事が好きだったんだよ

知らなくたっていいけれど 本当は知って欲しいけど

印象的なサビの入りのメロディーに、「おおきな~」という印象的な言葉がのっていて、グッと心を掴まれるサビです・・・。

片思いしている人は、この歌詞にやられまくりですね。「あなた」のことを「恥ずかしい程考えている」といえるくらい、この気持ちが大きなものになっているということ・・・そして、この気持ちを知って欲しい!と素直にいえず、「けれど」「けど」という逆説の接続詞を連続して使用しているところから感じ取れる、気持ちを伝えたいという欲求と臆病な気持ちとが絡み合うもどかしさ・・・ああ、分かりみが深いです。

 

 

個人的にすごいなと思ったのは、「恥ずかしい程」という語です。「あなた」は、自分のことをどう思っているか分からないうえに、「あなた」は、自分のことを一ミリも考えてすらいない可能性があるなかで、自分ばかりが「あなた」のことばかり考えている状態は、まさに惚れたら負け、みたいなもので、なんだか情けないし、どこか恥ずかしい気すらしてきませんか?私なんかは、まさにこういう感覚を抱きがちなので、めっっっちゃよくわかります・・・。

 

 

 

そして、最後に私が一番この曲のなかで好きな歌詞です。

あたし あなたと知り合うまで

何をして生きて来たんだろうか?

忘れてしまいそうな位

好きだと思える人に出会えてからの日々は、その人のことを四六時中考えてしまっているからこそ、出会うまでの、それまでの日々とは全く異なるものであると感じられること、ということを表現していると思うのですが、このことを的確に、そして、鮮明に表現しているこのフレーズは、本当に天才的だと思います。

 

「何をして生きてきたんだろうか」ですからね・・・。何をしてきたんだろうか、ではなく、「生きて」という語を使うということは、この曲の主人公にとっての「あなた」が、もはや生きることに必要不可欠なレベルにまで大きくなっているということかと思います。

 

 

私自身、好きな人ができると、まさにこうなってしまうタイプの人間のようで、好きな人のことで頭がいっぱいになってしまいます笑。それゆえに、それまでは本当に何をして生きてきたんだろう?と分からなくなってしまうくらい、これまでやっていたことが手につかなくなったり、また、それまで熱中してきたことに興味が無くなってしまったりしてしまいます。さらに、これは私だけかもしれませんが、そういった人と出会う前の写真フォルダなどを見返してみると、「このときの自分、一体どうやって生きてきたんだ!?今となっては、好きな人の存在なしには今の生活を考えられないぞ!」などと思ってしまい、不思議な感覚になります。

 

 

 

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aikoさんは、恋する女性の感情の機微を鮮やかに言語化してくださるアーティストで、本当に素晴らしいなと思います。

片思いの、好きな人で頭がいっぱいになってしまう期間というのは、恥ずかしくも、幸せな時間であると思います。この『かばん』という曲を聴いていると、恋をしていても、していなくても、そんな甘酸っぱい気持ちになってしまいます。