今回は、堂島孝平さんの『Emerald 22 Blend』をご紹介したいと思います。
本作は、1998年に発売されたアルバムです。
ひとつの映画を見終わったような満足感を得られる、聴きごたえありの充実作。生活に馴染む「マイ・ライフ」、恋に恋してしまう「恋は幻」や「ラブ」、せつないお別れを描いた「哀しみにさようなら」、懐かしい想い出に浸りたい「Remember」他を収録した通算5枚目のアルバム。 (C)RS(CDジャーナル)
私は、このアルバムがとにかく大好きです!個人的には、初期の堂島さんの楽曲の集大成としてのアルバムであるように感じます。また、98年発売ということで、今から約25年前の作品ということになりますが、古さを全く感じません!どちらかといえば、「新鮮さあふれるポップ」という感じがします。
それでは、1曲ずつ簡単にご紹介していきたいと思います。なお、歌詞につきましては、インターネット上に公開されていないものがあります(私は、歌詞カードも持っておりません)。そのため、本記事に書かれている歌詞は、私が耳で聞き取ったものにすぎません。漢字・かな・カナ表記が誤っている場合や、細かな言葉遣いの誤りがある場合がありますこと、事前にご了承下さいますようお願い申し上げます。
①マイ・ライフ
若い頃に抱きがちな、人生に対する焦燥感や先の見えなさからくる不安を、心地よく流れるメロディーに載せて前向きに歌った曲です。
この曲そのものが非常に美しいです。例えば、イントロのピアノが非常に爽やかで、若葉が風に揺られているような情景が浮かびますし、Aメロは、流れるようで、リズムも非常に心地よいです。この曲こそ、『マイ・ライフ』で歌われている「この胸に流れるメロディー」なのかなと思います。
『マイライフ』のライブ音源(メドレー)が、『スプリング・スプリンガー ~春に跳ぶ人~』に、スカイドライバーメドレーとして収録されています。
最近私は、これを見つけて、聴いてみて、えもいわれぬ気持ちになりました。もう本当に最高です・・・。音源を聴くだけでも、堂島さんがどれだけ笑顔で、楽しく歌っているかが鮮明に想像できるんです・・・堂島さんの「楽しいッ!」という気持ちが、歌声でそのまま表現されていて、聞き手は、とにかく幸せな気持ちになります。ここ最近で、大当たりを引き当てたような気持ちになりました。
ちなみに、このライブ音源は、iTunesやレコチョク等の配信サービスでは配信されていません。そのため、これを聴くためには、サブスクか、CDをゲットするしかないようです。ちなみに私は、CDをゲットしました!
②恋は幻
未練を強く感じている主人公が過去の恋愛を思い返している曲です。この曲の主人公は、恋愛をしているときは、相手のことがとにかく好きすぎて、頭がふわふわになってしまうタイプなのでしょう。
個人的にこの曲の好きなところは、リズミカルで響きのいい言葉がきれいに並んでいるところです。例えば、サビの「恋は幻」は、少し英語っぽく聞こえますし、「エブリデイ エブリナイト」は、歯切れがよくて何度でも口ずさみたくなりますし、「心 躊躇躊躇躊躇」も同様です(漢字にするとなんかいかついですね…)。
③ラブ
いけない恋であれ、相手の対応に一喜一憂しつづけ、もはや満身創痍な状態になっていて、どこか自分を静観してしまうこともあるけれども、それでもなお、この恋にハマってしまって抜け出せない人の曲だと思います。
個人的には、この曲が一番「面白くて」好きです。
第一に、気の抜けた堂島さんの声が何層か重なっていて、そのうち、妙に音程を外しているものがあるのですが、それが、恋に疲れてボロボロになった人みたいだなと感じられるからです。初めて聞かれる方は、ふふっと笑ってしまうかもしれません。
第二に、リズムが一定ではなく、オルゴールのネジを巻くように頑張って曲が流れようとしているところが、今の恋に対する諦めの悪さを表現しているように思うからです。こときれそうになっても、なにかちょっと思わせぶりなことがあると嬉しくなって、少し前向きになってしまう…みたいな、乙女心の機微を曲から感じます。
第三に、「いけない恋に落ちたよベイベ かわいそうです」というフレーズから、報われない恋をしている自分を「可哀想な人だ」と客観視しているところです。自分のことをかわいそうだな~と思いつつも、その恋にハマってしまうことってありますよね笑。
こういった「遊び心」の効いた曲は、面白いなと思います。
④ハートのルージュ
恋したての頃のワクワク感や多幸感あふれる言葉が、太くてかっこいいギターサウンドにのせて歌われている曲です。
私は、この曲のサビを聴いて一瞬で恋に落ちました(笑)踊りたくなるようなサビのメロディーのリズムといい、歌詞の可愛さといい、堂島さんの声のきゅるるん・ぷるるんとしたみずみずしさといい、どれをとっても胸キュンなんです!個人的には、「秘密を話そうよ」の歌い方が最高に好きです。なんというんですかね…「よ」の音が短く発音されているからか、堂島さんの声の可愛さや甘さが倍増しているような気がします。
「今愛のように激しく抱きしめあえたなら」
「夢で見ていたときみたく
「今日がずっと続くように祈るのさイエス」
あぁ…恋のはじまりって素敵ですね!
⑤哀しみにさようなら
この曲について、私は、失恋してしまった主人公が、また新たな人と出会ったことで、失恋による「哀しみ」を捨て、新たな希望を得ることが出来たということを歌っている曲だと思っています。しかし、よく聴いてみると、「黙ってないで聞かせてよ/胸に秘めた答えを」「話を変えてしまうのは/その視線のせい」といった、いかにも別れる直前の二人の様子を描いているような歌詞が出てきます。となると、失恋後に出会った人とも、もはや別れる寸前の状態になっているけれども、それでも希望をくれた人を愛し抜くと決めたから、もうどんなことがあっても哀しまないと決意した、ということを歌っている曲であるようにも思えます。どちらなのでしょうか?もし仮に失恋ソングだとすれば、前の『ハートのルージュ』からの恋の落差がすごいなと思います笑
個人的に、この曲がこのアルバムの中で一番好きです。
なぜなら、まず、曲全体が心震わすほどに美しいからです。イントロの落ち着いてしっとりとしたピアノや、段々と上がっていくようなAメロなど、それぞれのフレーズに郷愁を感じます。この曲は、少し寂しげで、肌寒さを感じさせるような雰囲気をまとっているのですが、その中にも少し強い日差しが細く指してくれているように感じます。
また、感動的で劇的なCメロが病みつきになるからです。「愛している」から始まるCメロですが、これがもう・・・本当に鳥肌ものです。美しく、壮大で、切なくて、泣きそうになります。整然としたリズムのピアノの音が続いてきた中で突如として現れるこのCメロは、聞き手の感情をぶわっとかき立てるようです。
恋が終わったあの日から 震えてばかりいたけれど
出会った瞬間広がった やわらかな光
出会いを通じて、失恋の悲しみから立ち直る様子が美しく描かれている歌詞だと思います。
⑥Remember
90年代後半の空気感が感じられる、ノスタルジーに浸れる曲調で、失恋後の「恋愛中の楽しかった余韻」を引きずり胸を痛めた主人公の心情が歌われています。
個人的には、
昨日も夢で君を見たよ 汚れもなく笑ってた
目が覚める度に いつも気がつくんだ
「もう僕の知ってる君ではないんだね」
この歌詞が非常に切なくて好きです。別れたあとの相手を想うとき、その相手の人生から自分が切り離されたような感じがして、よく知っていたはずなのにまるで知らない人のように感じられてしまうことがあると思うのですが、それが繊細に表現されているなと思います。
⑦ドライビング・ミュージック
『ドライビング・ミュージック』というタイトルですが、曲中にドライブ系の単語は一切出てきません(笑)
曲のなかで何度も流れる軽やかで、駆け上がるようなピアノの音や、手を叩きたくなるリズム感が心地良い曲です。
「胸にエメラルド 輝けるすべて」という歌詞が、このアルバムのイメージカラーと相まって、象徴となるフレーズである気がします。また、このフレーズには、奥深い輝きのあるエメラルドを胸に秘めた主人公の若々しさがぎゅっと詰まっていると感じます。
⑧Freedom
叙情的な歌詞と、夜の高速道路ドライブを想起させるAメロ〜Bメロがクセになる曲です。この部分は、歌い方もかっこいいんです。少し力の抜けた感じの声が色っぽいなと思います!
踊り続ける今日はフリーダム 色褪せてゆく夏の景色を
テノヒラにそっと浮かべて ひとつずつ分かち合おう
個人的に、この歌詞が好きすぎますね…。なんて美しいのでしょう。夏の終わり、秋の始まりを予感させるような涼しさを感じる頃の季節感が鮮明に想像できます。
ずっと続いてゆけばいいな この恋愛とフリーウェイ
今の恋愛に対する希望がストレートに表現された歌詞で、自身も恋をしているときには、胸にしみこむような気がします。
⑨スケッチ記念日
モコモコした音作り(こもった感じのアゴキの音や堂島さんの声)からして、クレヨンなどでスケッチに色を付けていく過程を描いているように感じる曲です。同棲している(?)彼女に『マリーミー』と伝えようとする主人公の心情(なかなかうまく伝えられないようです)と、二人の日常が描かれています。
時間や物が置かれている状況・情景が丁寧に描かれているので、二人がどのような暮らしをしているのかが想像できます。
思い描けば描くほど 遠回しにしか
言えそうにないな
主人公は、まっすぐに相手を思っているものの、まっすぐに、そして大切に思うからこそ「遠回し」になってしまうようです。主人公の生真面目であり、なおかつ、照れ屋であるところがなんとも可愛らしいなと思います。
⑩モノクローム
冒頭の『マイ・ライフ』とは反対に、あっけない死を連想させるような曲です。『マイ・ライフ』含め、『ハートのルージュ』や『Freedom』などでは、“(生活や恋などが)ずっと続いていってほしい“と歌われていましたが、この曲では、と歌われています。
個人的には、『アルバムの最後にコレ!?』と思い、非常に驚きました。しかし、よく聴いてみると、若いときは、ずっと人生が続くと思っていても、思いがけず「そのとき」はやってくるものだから、今を精一杯生きようというメッセージを込めた曲なのかなとも思いました。
浮遊感のある曲調が、未知の世界(黄泉の国?)を想像させます。
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今回は、堂島孝平さんの『Emerald 22 Blend』をご紹介しました。
このアルバムでは、"若さ"というものが様々な側面から描かれているように感じます。22歳でこんなにも奥深く、様々な感情を描写した曲が書けるなんて、本当に堂島さんはすごいなと思います。私が22歳だったときは、ただ漠然とした将来への不安しかなく、堂島さんのように、その感情を丁寧に取り出して、様々な方向から光を当てるような感じで言語化することなどできませんでした。
今まさに、若さゆえの漠然とした不安感を抱いている人に聴いて欲しいアルバムです。