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【解釈・考察】aiko『二人の形』

『二人の形』は、アルバム『桜の木の下』に収録されています。

二人の形

二人の形

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このブログで、これまでaikoさんの曲について詳細に取り上げたことはなかったと思います。今回の記事で、はじめてaikoさんの曲について取り上げてみようと思ったのは、単に、"今めっちゃハマっているから"です笑

 

 

はじめてaikoさんの曲にハマったのは、かれこれ十数年前、私が小学4年生のときです。周りの子に「好きな歌手はだれ?」と聞かれて、「aikoだよ!」というと、「だれ~?」と返ってくるのが日常茶飯事でした。今思えば、10歳でaikoさんの曲を聴いているなんて、相当マセてるなぁ・・・という感じです(aikoさんのアルバムのCMに出演されていた幼かった芦田愛菜ちゃんも、少しませてる女の子を演じられていましたね)。当時は、よく分からなかった歌詞の意味も、大人になった今では、「あぁ・・・」としみじみと聴けてしまいます。

 

 

 

そういうわけで、今回は、アルバム『桜の木の下』から、『二人の形』をご紹介したいと思います。

 

 

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この曲のテーマについて、私は、“今の恋人との恋愛は、今までとは全く違っているために色々と戸惑うところがあるけれど、少なくとも今の私はあなたといたい”ということだと考えています。この曲の女性は、一方的に好き!という強くて真っ直ぐでぶれない気持ちを抱いているというよりかは、「あなたのことを好きだと思う、うん、これでいいんだ、好き。」と、自分の中で何度も確認しているような不安定な気持ちを抱いているように聞こえるのです。

 

 

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フェードインしてくるピアノとドラムが、少し気怠そうな感じで、たまりませんね~日常を一部切り取ったような始まりを思わせます。そのうえ、ヒョーヒョーした風のような音が重なってきますが、これもどこか寂しげといいますか、不安定さを感じさせます。

 

 

ハンカチ1つ渇かないそんな心の中じゃ
見つかる物も見つかんないわ 少し暖めて下さい

主人公の女性は、どこか憂鬱な気持ちになっているのでしょう。こんな気持ちでは、心の中になにかを探しても見つかりはしないだろうから、実際の「あなた」のぬくもりを感じることで、それを見つけたい、ということなのかなと思います。

 

 

なにを探しているのかは、この曲のなかでは明らかにはなりません。個人的には、「自分があなたを好きだということについての確信的な気持ち」、あるいは、反対に「あなたが自分を好きだということについての確信的な気持ち」かなと思います(もし後者であったとしたら、冒頭に私が述べた説は早速崩れてしまいますね(笑))。

 

 

あなたののどを流れる息にあたしの前髪が揺れる
季節が変わっても時が経ってもあなたのそばにいたい

「あなた」と「あたし」には、結構な身長差があるようですね。それを心地よく感じているのか、あなたの息を感じて、これからもずっとあなたのそばにいたいと感じているのだろうなと思います。

 

 

 

あなたにはあたししかいないなんて

そんなことは到底言えないけれど

今のあたしにはあなたしかいらない

見えない気持ちを信じて言える

「あなた」がこれからも「あたし」とずっと一緒にいてくれるか(=「あなたにはあたししかいない」)どうかについて、「あたし」は確信を持つことはできないのでしょう。相手の気持ちがこれから(というか今においても)変化していくかもしれないとという不安を抱えているんだろうなと思います。

 


それに対して、「あたし」には「あなたしかいらない」と言い切っています。ここだけ読むと、『主人公は、相手に対してゾッコンなんだなぁ・・・」という感じがしてくるのですが、私としては、「今のあたし」と「見えない気持ち」という言葉から、そうではないのではないかと考えるのです。すなわち、まず、主人公が「今のあたし」と言っている以上は、現時点では、“未来の”あたしもあなたしかいらないという可能性への言及を避けている(あるいは、その可能性を排除している)と読むことができると思います。つぎに、「見えない気持ち」と言うのも、主人公の中には、相手を愛していると確信できるような気持ちが見いだせていないにもかかわらず、「今のあたし」が何らかの理由で「あなたしかいらない」と思ってしまうから(不安からか、孤独からか・・・?)、無い気持ちを無理矢理作り上げて、それを信じようとしていると読むことができると思います。

したがって、「あたし」は、「あなた」のことをそんなに好きではないけれど、なんとか気持ちを見つけようとして、それを信じて、「あなたしかいらない」と言っているのかなぁ・・・と思います。個人的なイメージとしては、愛というよりかは、少し執着に近いような感じです。何らかの理由から、すがるような気持ちがあるのでしょう。

 

 

 

あったかい夏の始まりそうなこの木の下で結ぼう

夏なのに、“暑い”のではなく、「あったかい」なのもまた気になります。私は、これは、二人の恋のおだやかさを表しているのかなと思います。2番の歌詞をどう読むかによって変わってくる部分でもありますが、それを「主人公の過去の恋愛」として読むとすると、「あったかい夏」とされる理由は、主人公が今の恋への物足りなさを感じているからなのではないでしょうか。

 

 

例えば、主人公がこれまでに経験してきた恋愛は、どれも熱く、主人公が相手を情熱的に好きになるというようなものだったのではないかと想像します。それに対して、今の恋愛は、主人公のなかに燃え上がるような気持ちが生まれることはなく、非常におだやかで、本当に相手のことを好きかどうかも解らないくらいさっぱりとした気持ちしか生まれないがために、何かが足りないような感覚に陥っているのではないかと思います。そうすると、やはり暑いというよりかは、「あったかい」というようになるのではないでしょうか。

 

 

まぁただ単に、「あなた」が激しい熱い人ではなく、非常に穏やかであたたかな人であるということを表現しているだけかもしれません。この後に「手を引くあたしに笑ってついてきてくれるそれが2人の形」というフレーズが出てきますが、この部分から、「あなた」は主人公をグイグイ引っ張っていくタイプではなく、一歩後ろをついてきてくれるタイプだと言うことがわかりますから、この見解のほうがふさわしいかもしれません・・・最初に述べた見解は、ちょっと妄想がいきすぎました(笑)。

 

「この木の下」は、アルバム「桜の木の下」にかけているのでしょうか。となると、桜の木とかになるのかなぁと思います。

 

 

愛する事も抱きしめる事も本当不器用で
ずっと傷ついて 失って ここまでやってきたのね

2番のこの部分と、次の部分は、誰のことについて歌っているのかは明らかになりません。私は、この部分を、先程述べたように、主人公の過去の恋愛体験として読んでいます。「やってきたのね」という言い方は、どうも他人の行為を評価するような言いぶりに聞こえます。しかし、次の部分も含めて考えてみると、また、ここに主観性が強く出ていると感じるとすると、どうも主人公のことを言っているのではないかという気がしてきます。よって、ここでは、そのように読むことにします。

 

 

主人公は、これまでの自身の恋愛では、傷つくこと、失うことばかりであったと歌っています。だからこそ、「今のあたしにはあなたしかいらない」といえるのかなと思います。今までとは少し違った恋愛だけれども、ボロボロに傷ついた今の自分には、あなたが必要なんだ・・・という気持ちです。

 

 

 

両手にあまる程たくさんの恋をしたってそれは
決して誇れる事じゃなくて悲しんでゆく事なのね

私がこの曲のなかで一番好きな部分です!!

前半を少し気怠そうに歌い、「それは」から力強く歌い出すという歌い方も、歌詞も、とても秀逸で大好きです。

 

 

一般に、恋愛の数は多ければ多いほど良い(なぜなら、数多くの恋愛経験によって、その人が成長することができるから、だから誇らしい)とか、言いますよね(言わない?!)。しかし、現実はそうであるはずがなく、過去の恋愛によって悲しむことのほうが絶対的に多いですよね・・・めちゃくちゃ真理だと思います。

 

 

 

私自身、「両手にあまる程たくさんの恋」をしたことはありませんが、片手の数くらいの恋をしたことはあります(笑)。時間が経って、昔好きだった人を思いだすと必ず考えるのが、「あの人は今何しているのかなー」ということです。以前、おそらく一生忘れないであろう、昔好きだった中学の先輩が数年後、特定の人となんだか親密だということを知ったときには、かなりショックを受けました。そういうもんですよね。

 

 

 

昔好きだった人が、“自分以外の”誰かと付き合って、結婚するんだと思うと、それはもう悲しくてしょうがないですよね。今の自分にそういう相手がいない場合には、ますます悲しいですよね。好きになった人の数が多ければ多いほど、自分以外の誰かと幸せになるシーンを見る(であろう)回数が増えていくわけですし、その人が一度は好きになったことがある人だからこそ、なかなか処理しきれない複雑な感情が生まれてしまうのです。そういうことを歌っているのかなぁと思います。

 

 


上の2つの部分からして、やはり「あたし」は過去の恋愛によって相当傷ついているのだと思います。主人公は、昔好きだった人が幸せになる場面を見てしまったんですかね・・・?だかこそ、「今のあたし」にとっての「あなた」は、好きとかどうとか関係なく、精神的な安定を実現するために必要な存在なんだということなのかもしれません。

 

 

雨が降ったらはぐれないように指の間握ろう

「雨が降ったら」というのは、「あたし」の心模様のことを言っているのだと思います。主人公がなんらかのきっかけで憂鬱な気持ちで塞ぎ込んでしまったとしても、そういうときには、「あなた」と「はぐれないように」、そばにいてほしいということなのだと思います。

 

それにしても、「指の間」とは、どの辺なのでしょうか。手を握るのではなく、「指の間」となると、恋人つなぎになるのでしょうか。

 

 

たとえ夜明けがない雲も切れない
そんな空の下でも
手を引くあたしに笑ってついてきてくれるそれが2人の形

先ほどの「雨が降ったら」と似ていて、この曲には、天候が悪いシーンが多く出てきます(というか、それしか出てきません)。

 

 

普通に読めば、どんな最悪な、塞ぎ込みやすくなりがちな状況でも、「あなた」といれば幸せ、みたいなことを言っているのでしょう。しかし、私は、「たとえ夜明けがない雲も切れない」は、主人公の「あなた」との関係における、さえない天気のような心模様を歌っているのではないかと思うのです。すなわち、主人公は、「あなた」といて、パーッと暑いくらいに晴れるような気持ちになることはないだろうと思っていて、おそらくこれからもじめじめとした、暗い天気のような気持ちで居続けるんだろうと予想しているのではないでしょうか。これから仮に、そういう状況が続いたとしても(「たとえ・・・」)、どうか私についてきてほしい、どうか私のそばにいてほしいと思っているということなのかなと思います。

 

「あなた」に対して、明確に「好き」という感情を抱いていないにもかかわらず、これからもそばにいたいと思っているというのはどういうこと?と思われる方もいるかもしれません。これは私としては、この曲のポイントだと思っている部分で、これまでも繰り返し意識して書いてきた部分です。というのは、「あたし」にとって、「あなた」はどこか物足りなくて、どうも心から「好きだ」と思えるような相手ではないけれども、過去の恋愛によって今もなお傷ついて、悲しんでいる自分には、いなくてはならない存在だと思っているということです。やはり、「好き」という気持ちよりかは、自分の気持ちを安定させるためにいてほしいという気持ち(もっと言えば、あなたまでもがいなくなってしまったら、自分は一人ぼっちになってしまうとわかっていて、それを絶対に避けたいという気持ち)が強いのではないでしょうか。ある意味、打算的だし、あんまり良くない恋愛だとは思います…しかし、そういう主人公の気持ちもわからなくはありません、傷を埋めるための恋愛というのも、世の中ありますからね。

 

 

ちなみに、この部分では、バックでぽわぽわした電子音が鳴っているのですが、これがなんともエモいんですよね〜気持ちがきゅうっとなります笑

2000年代前半の楽曲によく出てきているような印象があります(今はあんまり聞かなくなりましたね)。

 

 

 

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以上、aikoさんの『二人の形』の歌詞の考察をご紹介しました。ちょっとひねくれた解釈をしすぎたかもしれませんが、私にはそんなふうに聞こえます…笑。

 

もしかしたら、高校時代、私がそのような恋愛経験をしたことがあるからかもしれません。失恋の傷を埋めるために誰かと交際するのは…お互いに割り切っているならいいと思いますが、そうでないのであれば、ダメゼッタイって感じです。