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好きな音楽は、鉄道の路線網のように広がっていくものだと思う

【考察・解釈】スピッツ「めぐりめぐって」

「めぐりめぐって」は、アルバム『ひみつスタジオ』に収録されています。

めぐりめぐって

めぐりめぐって

  • provided courtesy of iTunes

 

 

この曲は、アルバム『ひみつスタジオ』の最後を飾る曲となっています。

個人的な体感として、近年のスピッツのアルバムの最後の曲は、スピッツのバンドとしてのメッセージソング、それもバンドとしての決意表明やファンへの思いなどを表現していると捉えられる曲が多くなっているような気がします。例えば、それは、『見っけ』では、「ヤマブキ」であり、『醒めない』では、「こんにちは」でした。この「めぐりめぐって」も、これらの楽曲と同じベクトルをもっているものだと感じています。

 

 

私としては、この曲は、まず第一に、「スピッツは、これからもファンの一人一人のために音楽を届けていくよ!」というメッセージを伝えようとしてくれていると思います。

スピッツは、まさに国民的バンドであると思いますが、ファンをファンというひとまとまりとして扱うのではなく、その一人一人と向き合うような気持ちでいてくれているというところがステキだなと感じます。

 

 

第二に、この曲の「めぐりめぐって」というタイトルからしても、曲に”循環”のイメージがわいてきます。このイメージを具体化するならば、スピッツのメンバーや、スピッツの楽曲、さらには、ファンの一人一人には、それぞれの「歴史的文脈」において、それぞれが色々と経験するなかで、それら全てがスピッツの音楽のもとに集合した、というものです。

ただ一直線に、みんながスピッツの音楽のものに集まっていくのではなく、例えば、ファンがスピッツの音楽を起点として色んな音楽をめぐったり、また、スピッツが色んな雰囲気(分野)、種類の音楽をつくったりしていくなかで、また同じところにめぐりめぐって戻ってきた(集まってきた)というニュアンスがあると思いました。

やはり、「めぐりめぐって」という言葉には、色んなところを巡る、という意味に加えて、それゆえにまた元に戻ってくること、というニュアンスもあると思うので、やはり“循環”というニュアンスも感じます。

 

 

曲も、非常に勢いがあり、シンプルかつ快活なロックサウンドで、やはりスピッツらしいなと思います。例えば、イントロのドラムスティックでのカウントには、バンドらしさを感じますし、イントロの「ジャッジャッジャジャッ!・・・」というところには、スピッツらしい明るさを感じます。ドラムの音もいきいきとしていて、躍動感があり、とても好きです。

 

また、曲の後半「細い糸を~光の中」の部分では、それまでの曲調をぶった切って、突如ゆっくりとしたテンポとなるところが面白いなと思います。これは、ある意味で前アルバム『見っけ』の「まがった僕のしっぽ」とは逆パターンですね笑。1曲で2曲美味しい!みたいな、そんな緩急のメリハリもあり、とても聴き応えのある曲です。

 

 

 

インタビュー記事より

この曲について、マサムネさんは、インタビューで以下のように語っています。

草野「これは、イメージとしてあったのがRCサクセションの”よォーこそ”って曲。ライブの1曲目で、『お客さん、ようこそ!』っていうような曲がスピッツにはないかもなあと思って。そういう、『めぐりめぐって、みなさんとこうやって、会えましたよ!』っていう喜びを表すような曲を作りたいなっていうところからできあがったんです」

(「永久保存版!『ひみつスタジオ』メンバー全員インタビュー」『ROCKINON JAPAN〔2023年5月号〕』(ロッキング・オン、2023年)57頁)

この曲は、やはり、スピッツからファンに対して、「めぐり逢えた」ということに対する喜びを伝えるメッセージを込めた曲だということなんですね。

 

 

また、この曲のアルバムにおける順番についても、興味深い発言がありました。

草野「・・・・・・1曲目の気分で作ってたんですけど、“i-O"が意外とよくできちゃったので、ラストになったっていう。アルバムのラストがアップテンポっていうのも好きなので」

三輪「これをラストにしたことで、またつながる感があったからよかったと思うね」

(同上、57頁)

もともと一曲目となることを想定して作られた、ということが意外でした。しかし、アルバムの最後の曲となったことで、三輪さんの仰るとおり、”循環”していく感じがするといいますか、「めぐりめぐって」が鳴り止んだ後の余韻が、また「i-O(修理のうた)」に繋がっていく感じがして、とても良いなと思っています。

 

 

それでは、歌詞をみてみたいと思います。

 

 

歌詞の考察・解釈

違う時に違う街で それぞれ生まれて

褒められてけなされて 笑ったし泣いたし

たまには同じ星見上げたりしたかもね

そして今めぐり逢えた

これは、スピッツのメンバー4人、そして、ファン一人一人が「それぞれ」として表現されているのかなと思いました。そして、各個人がそれぞれの人生を歩んできたところ、まさに「今」、つまり、この「めぐりめぐって」をはじめとするスピッツの楽曲のもとに集まることで、みんなにめぐり逢うことができた、といっているのだと思いました。

 

 

また、個人的に、「たまには~したかもね」の曲調がとても好きです。コーラスが入ることで、瑞々しい透明感を感じます。また、コード進行やメロディーも心地良いと感じます。私は、音楽理論に全く詳しくないド素人で恐縮なのですが、この部分は、カポを1フレットにつけた状態で、Em→C→G→Dというコード進行になっているようです。この流れに、そのような心地よさを感じる秘訣があるのでしょうか!

 

 

 

世界中のみんなを がっかりさせるためにずっと

頑張ってきた こんな夜に抱かれるとは思わず

ひとつでも幸せをバカなりに掴めた

デコポンの甘さみたいじゃん

これは、まさにマサムネさんたちスピッツの楽曲制作に対するスタンスを歌っている部分かと解釈しました。世界中をがっかりさせるために頑張る、というのが、なんだか捻くれているようで(あるいは矛盾しているようで)不思議に思われるかと思うのですが、それは、ある意味でマサムネさんのスタイルを指していると捉えています。

というのも、私としては、「1987→」にある

不思議な歌を作りたい

というフレーズが印象に強く残っているからです。

これは、私の推測ではありますが、マサムネさんの音楽を続ける原動力は、売れるため、世間から人気を得るため、ではなく、面白い曲を作りたいから、というところにあり、だからこそ、聴いた人をびっくりさせたい、みたいな思いがあるのではないか、と思っています。それゆえに、仮に曲を聴いた人ががっかりしたとしても、それは、織り込み済みなんだということを表明しているのであり、むしろ、そのことを逆手にとって、「がっかりさせるため」とまでいってしまっているのかな、と思いました。

 

 

ある意味、一般的に想定される願望とは少し「ズレた」願望を抱いているともいえるかもしれません。それでも、スピッツは、多くのファンから歓迎されているわけでして、そこに「ひとつでも幸せをバカなりに掴めた」と感じているのかもしれません。

その幸せを、「デコポンの甘さみたい」と表現しているのが面白いですね。

 

 

デコポン自体、そこまで甘みが強い品種ではなく、むしろ酸味が強い品種です。だから、この幸せとは、ちょっぴり甘さを感じるもの、さらには、人々が幸せと感じるものの一部(わずかな部分)を指しているのかなと思いました。

 

 

 

君のために歌うことで 憧れに手が届くような

戯言かな 運命を蹴散らしてく

この部分は、歌詞通り「君のために歌うことで」、これまでにスピッツというバンドが憧れてきた存在(例えば、ザ・ブルーハーツとかですかね?)に手が届くような気がしている、ということを歌っていると思います。

 

 

これはあくまでも私の推測にはなりますが、国民的バンドになるためには、大勢のリスナーを獲得する必要があると思います。とすると、バンドとしてそのように成功するためには、ある意味で「万人受け」する楽曲を作り続けなければならない、ということになろうかと思います。

 

 

しかしながら、スピッツは、そのように考えていないのではないでしょうか。というのも、この曲で、「君のために歌う」といっているのが印象的なのです。これは、万人受けを狙うこととは対照的なものとして、位置づけられているのではないでしょうか。それゆえ、本来、(目の前の)一人一人に歌を届けていくようなやり方では、なかなか国民的バンドとしての成功を収めることは難しいという「運命」を背負ってはきたものの、今のところの実感としては、その「運命」を乗り越えて、憧れのバンドに近づいてきている感じがする、ということを歌っているのかなと思いました。

 

 

 

秘密のスタジオで じっくり作ったお楽しみ

予想通りにいかないけど それでもっとワクワク

守ってきた捻くれもちらりのぞかせて

フリーハンドでめぐり逢えた

個人的に好きな箇所です。

前半部分は、音楽を作ることの楽しさ、ワクワク感を歌っていると思います。これは、音楽に限らず、「もの」を作り出す行為全般に通じることであると感じます。誰かのためを思いながら、自分の密やかな空間でじっくりと、試行錯誤しながら「もの」を作る・・・この時間は、とても素敵な時間ですね。

 

 

後半部分は、スピッツらしさを感じる部分です。「守ってきた捻くれ」というのは、まさにこれまでのスピッツの楽曲の重要な要素となっているものです。

個人的には、今のスピッツの音楽づくりに対する姿勢として、これまでこだわってきた要素に固執することなく、自由でオープンな気持ちで取り組めているという、前向きな気持ちが表現されていると感じます。すなわち、これまでは、例えば、意図的に「捻くれ」の要素を出してきたものの、今は、そういったことにこだわらずに、むしろ遊び心において『ちょっと捻くれの要素も出してみよう』くらいの軽い気持ちで、のびのびと曲を作ることができる、ということを歌っているのかなと思いました。

 

 

ちなみに、この箇所の前に間奏が入るのですが、それがまた良いんです。

同じギターリフが輪唱するように入ってくる部分があるのですが、それが、「めぐりめぐって」感があるといいますか、循環しているような感じがします。

 

 

 

君のために歌うことで 未知の喜びに触れるような

大げさかな 概念を塗り替えてく

この箇所も、先ほどの「君のために~」と同じように、大衆(というひとくくりの存在)に対して歌うのではなく、「君」という一人一人の存在に向けて歌うことで、新たな喜びを感じることができるということを歌っていると思います。

そのように個人に歌を届けていくこと、すなわち、売れるためのセオリーを打ち破っていくからこそ、「概念」にない、「未知の喜び」を感じることができるのだろうと思いました。

 

 

 

 

細い糸をたぐって 何度もめぐりめぐって

雨はあがり 光の中

この箇所は、これまでの速いテンポとは打って変わって、突如スローダウンして、遅いテンポに変わる部分です。「まがった僕のしっぽ」とは、逆パターンですね。

 

 

しっとりと、ゆっくりと、丁寧に歌い上げられているからこそ、暗闇の中、目の前に続いている「細い糸」(=光への道筋?)をたぐりながら、よじ登っていき、ついに、光の中に包まれていく様子が想像できます。

 

 

この「細い糸をたぐって」いるのは誰か?ということについて、私は、スピッツの楽曲だと思っています。というのも、楽曲の「タネ」(あるいは芽?)というものがあるとして、色んな扱いを受けながらも(ボツになったり、採用になったり、変更したり・・・)最終的にそれらが楽曲という一つの形になる過程を比喩的に表現しているような気がしたからです。

その「タネ」を擬人化して考えるとして、それらが必死に「細い糸」、例えば曲になるための道筋をたどりつつ、色んな形式になることを経験しながら、「めぐりめぐって」一つの楽曲となる、というわけです。ちょっと妄想しすぎですかね?笑。(さらにいえば、このフレーズは、個人的には『胎内めぐり』のイメージです)。

 

 

 

違う時に違う街で それぞれ生まれて

褒められてけなされて 笑ったし泣いたし

たまには同じ星見上げたりしたかもね

そして今めぐり逢えた

曲の最後の箇所です。曲の冒頭と同じフレーズを、曲の最後に再びくり返すことで、やはり「めぐりめぐって」また出会えた、すなわち、循環した感じがします。

 

 

 

個人的な感想

以上、スピッツ「めぐりめぐって」の意味について、個人的考察・解釈をご紹介しました。

 

 

この曲は、私としては、なにかを創り出す楽しさや、その際に大切にしたいことを思い出させてくれる曲です。

私は、創作など、なにかを創る行為において、“誰かのため”という視点を忘れたくないと思っていますし、確立されたやり方や固定観念固執するのではなく、あくまでも自由に、それこそ「フリーハンド」で取り組みたいなと思っています。いたって当たり前のことをいっているにすぎないとは思うのですが、実際、私がこれまで身を置いてきた世界では、なかなかこの考えをもっている人に巡り会えませんでした。また、このような考えを否定されることも多々ありました。だからこそ、私にとっては、スピッツのこの曲が非常に新鮮なものとして感じられますし、自分を瑞々しいものにしてくれるものだと思っています。

 

 

 

余談

余談①

ちなみに、「違う時に違う街で~今めぐり逢えた」の箇所は、非常にリズミカルで好きです。大変失礼なお話で恐縮なのですが、この部分に合わせて、(かなりのハイテンポで)フォークダンスの一つである「ジェンカ」を踊りたくなるのですが・・・私だけでしょうか!?実は、この曲を初めて聴いたときから、可愛らしい感じの猫(二足歩行)が一列に肩を組んで、ジェンカを踊っているイメージがあります笑。なんだか可愛らしくないですか?

 

 

余談②

私は、『ひみつスタジオ』のなかで、この曲が特に印象的で、好きです。というのも、2023年5月に開催された下北線路街でのイベントで、この曲が街中に高らかに響いていたのが印象的だったからです。

sp.universal-music.co.jp

当日、現地では、アルバムのその他の曲も色々と流れていたのですが、この曲は特に、印象的で、この曲の良さ、すなわち、リズム・テンポの良さとマサムネさんの伸びやかで美しい高音と、街全体が横断幕などで黄色に染まっていた様子が相まって、街全体をフレッシュに彩っていたと感じました。

 

 

それにしても、もう1年以上前に開催されたイベントになるんですね・・・!懐かしい!

個人的には、メンバーと一緒に写ることができるプリクラ機の企画(Photoism)が面白かったです。フレームとはいえ、メンバーと一緒に写れるというのは、なんだか貴重でした。皆さん、アイドルとも負けず劣らずですからね!!ウッキウキで撮りました。

 

 

そして、Photoismには、かなりの長蛇の列ができていたのですが、そこに並んでいる間の時間も楽しかったです。特に誰かとお話ししていたわけではなかったのですが、後ろの方に並んでいる方々から、「めぐりめぐって」について、テンポダウンするのって面白いよね~と聞こえてきたのが印象的でした。このように、周囲にスピッツのライブやアルバムの感想を話している方がたくさんいらっしゃって、とても微笑ましかったです。

 

 

私が行った日は、残念ながら雨の日だったのですが、世田谷代田方面へ向かうときに、フォトスポットである「i-Oくん」が木々(?)の中で雨の中ぽつんと立っていたのをよく覚えています。ちょっぴりかわいそうとも、なんだかけなげでかわいいなとも思いつつ、少しだけ傘をかけて、一緒に写真を撮りました。良い思い出です。